問題その3 広域避難場所の面積
地震火災が起こったら、学校(避難所)に逃げるという人を見かけます。
学校(避難所)は災害からの危険が去った後に、家を失ったりした人たちが生活する場所です。
防災の専門家が、地震火災から避難すべき場所としているのは、市町ごとに指定している「広域避難場所」です。
そして、地震火災は通常の火災とは異なり、同時に数ヶ所で発生します。同時多発火災です。
ゴルフ場周辺は県下最大の延焼火災地域
1軒の家屋の火災が消火できず放置しておくと、全域が延焼します。
この地域の単位のことを「クラスター(延焼運命共同体)」と言います。
県の調査では、大正型関東地震では、市全域で80件の火災発生を想定していますから、ゴルフ場周辺は約20件の火災が発生すると想定できます。(ゴルフ場周辺の人口は、市の人口の4分の1)
ゴルフ場周辺地域は、道路が狭く消火活動が上手くできない上に、約1万棟の木造家屋が密集する県下最大のクラスター(延焼運命共同体)です。
大正型関東地震のような大地震が発生すれば、同時火災が発生し、消火は難しく、地域全体が焼失するとも想定されています。
火災が発生してから2〜5分で天井に燃え移ります。
天井に燃えると、住民での消火は困難です。
1軒の火災でも、炎の高さが20mに及びます。延焼火災では、火災と火災が重なって火勢が強まり、災がさらに高くなります。
火災の起きている場所から100m離れないと、人は炎による輻射熱や火災旋風で命を失ったり、やけどを負います。(上図)
この距離は最大で300m必要とされています。
飛び火によって遠方にある家屋も延焼します。(最近の研究では飛び火は700mに及ぶとも言われています。)
防災緑地研究の第一人者、愛媛大学防災研究センターの二神透准教授は、「茅ヶ崎ゴルフ場は周囲に樹木が植栽されており、地震火災の輻射熱を十分遮蔽できるので安全な避難場所ですが、この地域が開発され、樹木が伐採されれば安全な場所を失う」として、「住民の生命を守るため広域避難場所の保全をお願いします」との意見書を県知事に提出しています。
それほど地震火災は恐ろしいものです。
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県は、広域避難場所の面積を6万㎡に縮小
県、市が定める広域避難場所の一人当たりの安全面積は2㎡です。
茅ヶ崎ゴルフ場は6万人の避難場所ですから、2㎡ × 6万人 =12万㎡ が必要です。
しかし、県はこれを一人当り1㎡に縮小すれば、6万人(周辺地域の夜間人口)を収容できるとして、6万㎡の広域避難場所を確保する意向です。
一人1㎡では、避難時に持ち込むペットや手荷物、車いすなども含めて、6畳間に10人詰め込む状態になります。身動きも不自由で、人がやっと通り抜けることが出来るぐらい、ぎゅう詰めの電車内のようなもの。
これでは火災が拡大して輻射熱の危険にさらされたり、風向きが変わって火災旋風をまともに受ける危険が迫っても、素早く逃げることはできません。
お年寄りや体の不自由な人はなおさらです。
県が一人当たり面積を1㎡とする根拠は、どこにあるのでしょうか?
「神奈川県大震火災避難対策計画」は、原則2㎡ です。
例外として「期待する避難住民の収容人数に満たず、加えて他の避難地を選定することが不可能なときは、一人当たりの必要面積を1㎡の最小単位にすることが出来る」ことを定めており、この例外規定に基づくものです。
しかし、茅ケ崎ゴルフ場はじゅうぶんに6万人の避難住民を収容できています。
ですので、例外規定は適用できず、2㎡が適用されます。
県が定めた安全規定を改定するのであれば、県は科学的な知見によりゴルフ場の周辺住民に安全を立証する責任を負います。
しかし、県の担当課は自らがこの責任を果たそうとするつもりはありません。
ある事業提案者は、住民訴訟や火災被害責任を心配して、「特に広域避難場所、災害対応の考え方は、相応な専門家、機関や国などのエビデンス(証明)が必要と考える」として県の対応を質問したところ、
「広域避難場所の変更については、市防災会議の議を経る必要があります」と県は市に責任転嫁しています。
市はこのような証明を行う予定はありません。
それでも1㎡の安全確認をせずに、事業者の提案を今年の9月中には決定するスケジュールで進められています。
県がこのように周辺住民の安全に配慮せず、強引に茅ケ崎ゴルフ場の利活用事業を推進するのは、縦割り行政による誤算も起因しています。
県のみならず、市にも誤算があります。
このことは、次回以降にお話しします。